この記事でわかること
- 女性が懸垂をハードに感じる2つの理由:上半身筋量・体脂肪率の差を科学的に解説
- ムキムキにならない根拠:ホルモンと研究から考える、体つきの変わり方
- 女性が懸垂1回を達成するための6ステップと準備リスト
「懸垂って、女性には無理なんじゃないの?」
そう思って、鉄棒を素通りしていませんか?
じつは懸垂は、女性こそ取り組む価値のあるトレーニングです。肩こり・猫背の改善、引き締まった背中、ブレない体幹——すべてが手に入ります。
確かに、女性が懸垂を習得するまでの道のりは男性より少し長い。でも、それは「無理」とはまったく違います。
このガイドでは、懸垂が1回もできない女性が、着実に1回を達成するための全情報をまとめました。「ムキムキになりたくない」という不安の解消から、週ごとのトレーニング計画、女性特有のモチベーション管理まで——一本で完結する記事です。
女性が懸垂できないのはなぜ?難しく感じる2つの理由
「女性は懸垂が苦手」——これは個人の努力不足ではなく、体の構造から来る本質的な差があります。まずここを正しく理解することが、遠回りせず最短で達成する第一歩です。
上半身の筋量が男性の約60%しかない
懸垂は主に広背筋・僧帽筋・上腕二頭筋を使います。MRIで468人の筋肉量を調べた研究では、男女の筋肉量の差は下半身より上半身のほうが大きく、上半身では女性が男性より約40%少ないと報告されています(Janssen et al., 2000)。つまり、女性の上半身の筋肉量は男性の約60%です。
同じ研究では、体重に占める筋肉の割合も、男性の約38%に対して女性は約31%でした。懸垂は「自分の体重を引き上げる」運動なので、体重に対して引く筋肉が少ないほど、難しくなります。
体脂肪率が高く、相対的な負荷が増す
女性は体脂肪率が男性より10ポイントほど高い傾向があります(たとえば男性が20%前後なら、女性は30%前後)。体脂肪はエンジンにはならず、引き上げる「重さ」になるだけ。これが、同じ体重でも女性のほうが懸垂で相対的に不利になる理由です。
女性の懸垂の平均は?できる人はどれくらい?
日本では、女性の懸垂の平均回数を示す信頼できるデータが見当たりません(文部科学省の新体力テストにも、女性の懸垂の項目はありません)。ネットでよく見る「平均◯回」がどこから来た数字なのかは、懸垂の平均回数の記事で整理しています。
参考になる数字としては、アメリカ海兵隊のデータがあります。新兵訓練を終えた女性の新兵のうち、懸垂が3回未満だった人は55%でした(2013年、NPRの報道)。訓練を受けた人でも、半分以上が3回に届かなかったということです。
つまり、女性が懸垂0回なのは珍しいことではありません。1回できれば、それだけで十分に誇れる結果です。
参考になるのが、アメリカのデイトン大学の研究です。懸垂が1回もできない女性17人が、週3回・3か月のトレーニングを続けた結果、1回できるようになったのは4人だったと報じられています。この研究の論文では、最後に1回できた人は体重に対する筋力が高かったことも報告されています(Flanagan et al., 2003)。
これは「女性には懸垂は無理」という結果ではありません。3か月では足りない人が多い、という意味に読むのが妥当です。この記事で目安を「3〜6か月」としているのは、このためです。そして、1回に近づく鍵は「体重に対する引く力」です。このサイトのPULLUXも、体重を計算に入れて懸垂力を測っています。
でも、だから「やりがいがある」
上記の理由から、女性が懸垂をマスターすると、同じ体重の男性より大きな壁を越えたと言えます。できたときの達成感と、周囲からの目線は段違いです。
女性が不利な理由を詳しく知りたい方はこちら:
「ムキムキになりたくない」は心配無用——ホルモンから考える理由
女性からよく聞く懸垂への最大の懸念、それが「筋肉がつきすぎてムキムキになるのが怖い」です。
結論から言います。懸垂で女性がボディビルダーのような体型になることは、ほぼありません。
テストステロンは男性よりずっと少ない
筋肉の成長に関わるホルモン「テストステロン」は、思春期以降、男性では女性の15倍以上になることが知られています(Handelsman et al., 2018)。
一方で、筋トレで筋肉が増える「割合」は、男女で大きな差がないとする研究もあります(Roberts et al., 2020)。ただ、女性はもともとの筋肉量が少ないぶん、増える量そのものは小さくなりやすく、懸垂の練習を続けても、体つきが急に大きく変わることはまれです。
「ムキムキに見える女性」はどんな人か
SNSで見かける筋肉質な女性アスリートの多くは、何年もかけて、高い負荷のトレーニングと食事の管理を意図的に続けています。週2〜3回、懸垂0回から1回を目指して練習する段階で、そうした体つきになることを心配する必要はありません。
懸垂で変わるのは「筋肉」。脂肪を落とすには食事も必要
懸垂を続けると、背中や肩、腕の筋肉が育ちます。ただし、鍛えた場所の脂肪だけが落ちる「部分やせ」は、研究では確認されていません。お腹の筋トレを6週間続けても、お腹の皮下脂肪は減らなかったという研究もあります(Vispute et al., 2011)。
背中のラインをすっきり見せたいなら、懸垂で筋肉を育てることと、食事で体脂肪を減らすことの両方が必要です。体重が軽くなるほど懸垂も楽になるので、1回への近道にもなります。くわしくは懸垂0回脱出には減量も近道で紹介しています。
懸垂1回への6ステップ——クリアしたら次へ進もう
「何週目までに」ではなく、各ステップのクリア基準を達成したら次へ——これがこのプログラムの基本的な考え方です。個人差が大きく、目安は3〜6か月です。焦らず、自分のペースで進みましょう。
| ステップ | 内容 | クリア基準(達成したら次へ) | 目安期間 |
|---|---|---|---|
| STEP 1 | デッドハング | 30秒連続ぶら下がり | 2〜3週間 |
| STEP 2 | スキャプラ・プルアップ | 連続5回(スムーズなフォームで) | 1〜2週間 |
| STEP 3 | インバーテッド・ロウ(斜め懸垂) | 45度×連続10回 | 2〜3週間 |
| STEP 4 | トップホールド | トップポジション10秒キープ | 1〜2週間 |
| STEP 5 | チューブアシスト・プルアップ | フォームを崩さず連続10回 | 2〜3週間 |
| STEP 6 | ネガティブ・プルアップ | 5秒かけてゆっくり下ろす×5回 | 2〜3週間 |
STEP1 デッドハングのやり方:
STEP2 スキャプラプルアップのやり方:
STEP3 斜め懸垂のやり方:
STEP4 トップホールドのやり方:
STEP5 チューブアシスト・プルアップのやり方:
STEP6 ネガティブ・プルアップのやり方:
始める前に準備すべき3つのこと
正しい準備なしにいきなり鉄棒にぶら下がっても、挫折か怪我のどちらかです。最初の1週間で揃えておきたい準備を3つ紹介します。
1. 床に置く懸垂器具を用意する
ジムに通う必要はありません。床に置くタイプの懸垂器具(懸垂スタンドや鉄棒型)があれば、自宅で毎日気軽に練習できます。器具の選び方は、懸垂スタンドと鉄棒型の比較記事を参考にしてください。
2. パワーグリップを用意する
女性は男性より手が小さく、握力も低い傾向があります。特に初期段階では、バーを握り続けることで手のひらにマメや痛みが出やすいです。パワーグリップを使えばこれを防ぎ、背中への意識に集中できます。
3. ウォームアップを習慣にする
練習の前に、5分ほどのウォームアップを習慣にしましょう。肩や肘、手首を動かして体を温めてから、バーにぶら下がります。やり方は懸垂のウォーミングアップの記事で紹介しています。
女性特有のモチベーション問題と、その解決策
トレーニングの継続において、女性が直面しやすいモチベーションの落とし穴があります。「頑張っているのに男性に全然追いつけない」「SNSでムキムキの女性を見て自信をなくした」——そんな経験はないでしょうか。
「男性と比べる」のをやめると、気持ちが楽になる
ジムで男性が軽々と懸垂しているのを見て、落ち込んだことはありませんか?これは比較対象が間違っています。
前述のとおり、女性は構造的に懸垂が難しい体を持っています。同じスタートラインに立っていないのに、同じ結果を比較するのは意味がありません。
比べるべきは「昨日の自分」だけ。1週間前より5秒長くハングできるようになった、それが本当の進歩です。
「数字」で進捗を可視化する
懸垂の進歩は感覚ではわかりにくいため、数字で記録することで継続しやすくなります。おすすめの記録項目は次の3つです:
- デッドハング時間(秒)
- 斜め懸垂の回数
- ネガティブの所要秒数
週ごとに記録を見返すと、「確実に進んでいる」という事実が見えます。感情ではなくデータで自分を励ます習慣をつけましょう。
「できない日」を責めない仕組みを作る
生理周期に合わせて体調が変わるのは女性の自然なサイクルです。生理の前後に疲れやすくなったり、ハングの時間が短くなったりする人もいます(体調の変化には個人差があります)。これを「サボり」と解釈しないことが大切です。
生理期間中は軽いストレッチだけでもOKと最初から決めておくと、罪悪感なく継続できます。週3回の計画が週2回になった週があっても、やめなければ、少しずつでも前に進めます。
懸垂ができた女性が手に入れる3つの変化
①背中を使う感覚が身につき、姿勢を意識しやすくなる
懸垂で鍛える広背筋や僧帽筋、菱形筋は、姿勢を支える背中の筋肉です。背中を使う感覚が身につくと、デスクワークで丸まりがちな姿勢に気づきやすくなります。ただし、懸垂で肩こりや猫背が治ることを直接示した研究は見当たりません。
②「肩〜背中のライン」が変わる
肩から背中に筋肉がつくと、後ろ姿の印象が変わってきます。ノースリーブを着たときの肩まわりのラインも変わります。ただし、前の見出しのとおり、脂肪を落とすには食事も合わせて必要です。
③「私にもできた」という自己効力感
懸垂は「女性には難しい」という社会的なイメージがある分、達成したときの自己効力感(self-efficacy)が非常に高いです。「できないと思っていた自分を超えた」という経験は、トレーニング以外の場面でも「やれば何とかなる」という感覚として残ります。
まとめ:女性の懸垂は「ハードモード」だけど、十分に目指せる
- 女性が懸垂を苦手とするのは、筋量・体脂肪率という体の構造上の理由があるから
- 「ムキムキになる」心配は、ホルモンの違いと研究から考えると、しすぎなくてよい
- まずは「10秒ぶら下がること」から。焦らず各フェーズの目標をクリアしてから次へ進む
- 揃えるのは「バー・パワーグリップ・ウォームアップ習慣」の3つ
- 男性と比べず、数字で進捗を記録し、生理周期に合わせた「許可日」を設ける
焦らず、でも確実に。数ヶ月後の自分が鉄棒の前で笑っている姿を想像しながら、まず今日のハングから始めてみてください。
まずはSTEP1から始める:
よくある質問
- Q女性でも本当に懸垂はできるようになりますか?
- A
はい、できます。ただし男性より時間がかかります(目安3〜6ヶ月)。女性は上半身の筋量が男性の約60%、体脂肪率も高いため相対的な負荷が増しますが、正しいステップで段階的に鍛えれば、1回は十分に目指せます。「難しい」のであって「不可能」ではありません。
- Q懸垂をするとムキムキになりませんか?
- A
なりません。女性のテストステロンは男性よりずっと少ないことが知られています。一方で、筋トレで筋肉が増える「割合」は男女で大きな差がないとする研究もあります(Roberts et al., 2020)。ただ、もともとの筋肉量が男性より少ないぶん、増える量そのものは小さくなりやすく、懸垂の練習を続けても、体つきが急に大きく変わることはまれです。ムキムキに見える女性アスリートは、数年以上かけて意図的に高い負荷をかけ続けた方々です。
- Q何ヶ月で懸垂1回ができるようになりますか?
- A
個人差がありますが、6ステッププログラムを週2〜3回実践した場合、3〜6ヶ月が目安です。体重・現在の筋力・継続頻度によって変わります。PULLUXスコアで現在地を測ると、より具体的な目安がわかります。
- Q女性が懸垂を始める前に何を準備すればいいですか?
- A
①床に置く懸垂器具(懸垂スタンドか鉄棒型)、②パワーグリップ(手の痛み対策)、③ウォームアップ習慣の3つです。特にパワーグリップは初心者女性の手の痛み問題を解消し、背中の筋肉への刺激を高める効果があります。最初から揃えておくと継続しやすくなります。
今日からできる:女性の懸垂1回達成チェックリスト
- ①「無理」という思い込みを捨てる:女性でも正しい方法で3〜6か月続ければ、1回は十分に目指せる
- ②懸垂器具とパワーグリップを用意する:床に置く懸垂器具なら自宅で毎日練習でき、パワーグリップで背中に集中できる
- ③6ステッププログラムに沿って始める:デッドハングから順に段階的に進む——飛び級しない
- ④男性・SNSと比較しない:PULLUXスコアで「昨日の自分」との比較を習慣にする
- ⑤週2〜3回を3ヶ月続ける:継続できる回数設定で「できない日」のルールも決めておく
参考文献
- Janssen I, Heymsfield SB, Wang ZM, Ross R. (2000). Skeletal muscle mass and distribution in 468 men and women aged 18–88 yr. Journal of Applied Physiology, 89(1), 81–88. PubMed
- Handelsman DJ, Hirschberg AL, Bermon S. (2018). Circulating Testosterone as the Hormonal Basis of Sex Differences in Athletic Performance. Endocrine Reviews, 39(5), 803–829. PubMed
- Flanagan SP, Vanderburgh PM, Borchers SG, Kohstall CD. (2003). Training college-age women to perform the pull-up exercise. Research Quarterly for Exercise and Sport, 74(1), 52–59. PubMed
- Vispute SS, Smith JD, LeCheminant JD, Hurley KS. (2011). The effect of abdominal exercise on abdominal fat. Journal of Strength and Conditioning Research, 25(9), 2559–2564. PubMed
- Roberts BM, Nuckols G, Krieger JW. (2020). Sex Differences in Resistance Training: A Systematic Review and Meta-Analysis. Journal of Strength and Conditioning Research, 34(5), 1448–1460.
著者プロフィール
SUZUKI20|39歳・会社員・2児の父。毎朝3時40分に起き、出勤前の10分だけでトレーニングを続けています。スポーツ科学の修士号(専門はスポーツビジネス)を持ち、懸垂0回から連続20回まで自分の体で試してきました。忙しくても再現できる情報だけを発信しています。













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