「懸垂でぶら下がると、肩の前がズキッと痛む」
「腕を上げると肩が痛い。このまま続けて大丈夫?」
「肩を回すと、コリコリ鳴る」
肩の痛みや音が気になると、「懸垂を続けたら悪化するのでは」と不安になります。
この記事では、医療機関や医学文献の情報をもとに、懸垂で肩が痛いときに考えられることと、すぐに受診したほうがいい症状、練習を続けていいかの目安をまとめます。
※この記事は診断や治療の代わりにはなりません。痛みが続くときや、下で紹介する「受診したほうがいいサイン」があるときは、整形外科を受診してください。
わたしの肩の場合:回すとコリコリ鳴る
わたしは、右肩を回すと、いつもコリコリと鳴ります。違和感はありますが、懸垂の動作に支障はありません。
肩のことで病院に行ったことはないので、この記事の「痛み」についての内容は、わたしの体験ではなく、調べた情報として紹介します。
痛みのない「音」と、痛みは分けて考える
肩を回したときのコリコリ、ポキポキという音だけで、痛みがない場合があります。肩甲骨まわりの音についての研究をまとめたレビューでは、音だけなら症状のない人にもよく見られ、それだけで治療が必要になるわけではないとされています(Baldawi et al., 2022)。
一方で、音と一緒に痛みが出る、腕が動かしにくい、引っかかる感じがある、という場合は別です。この場合は、次の「痛みがあるとき」の内容を見て、必要なら受診してください。
懸垂で肩が痛いときに考えられること
懸垂は、腕を頭の上まで上げた姿勢でぶら下がり、そこから体を引き上げる運動です。腕を肩より上に上げる動きで痛みが出る人は、懸垂でも痛みが出やすくなります。
腕を上げたときに肩が痛む原因としてよくあるのが、「肩峰下の痛み(肩峰下インピンジメント)」です。肩の上の骨(肩峰)の下を通る腱板(肩を支える筋肉の腱)や滑液包(クッションの役割をする袋)が刺激されて、痛みが出ます。年齢や、腕を上げる動きのくり返しなどが関係するとされています(NHS Fife)。
ただし、肩の痛みの原因はほかにもあり、自分で見分けることはできません。下の症状は「考えられること」の目安として読んでください。
よくある症状
- 腕を肩より上に上げると、肩や二の腕の外側が痛む
- 上着を着る、髪を洗う、高い棚に手を伸ばすときに痛む
- 痛む側を下にして寝ると痛い、夜に痛みで目が覚める
- ぶら下がったとき、肩の前や上に詰まるような痛みが出る
すぐに受診したほうがいいサイン
次のような場合は、懸垂の練習を止めて、早めに受診してください(NHS)。
- 急に、または非常に強い痛みが出た
- 腕が動かせない
- 肩の形が変わった、ひどく腫れている
- しびれが続く、腕や肩の感覚がない
- 腕や肩が、触ると熱い・冷たい
- 転んだ、バーから落ちたなど、ケガのあとに痛み始めた
- 両方の肩が強く痛む
- 熱っぽい、体調が悪い
また、痛みがだんだん強くなっている、2週間たっても良くならない、腕や肩を動かすのがとても難しい、という場合も受診をすすめています(NHS)。
痛みがあるとき、懸垂の練習は続けていい?
英国の国民保健サービス(NHS)は、肩が痛いときのセルフケアとして、次のことをすすめています。
- 肩を完全に動かさないのではなく、無理のない範囲でやさしく動かす
- 痛みが強くなる動きはしない
- 自己流のきつい運動や、重い器具を使ったトレーニングはしない
懸垂は、自分の体重をほぼすべて肩と腕で支える運動です。痛みを我慢して懸垂を続けるのはやめましょう。また、NHSによると、セルフケアを続けて痛みが和らぎ始めるまでに2週間ほどかかることが多く、回復に6か月以上かかることもあります。
痛みの程度に合わせて、次のように考えると判断しやすくなります。
- 腕を上げるだけで痛む、日常生活でも痛む:ぶら下がる練習はすべて休む。気になるときは受診する
- 日常生活では痛まないが、ぶら下がると痛む:腕を頭の上まで上げない練習だけにする(下で紹介)
- ぶら下がっても痛まない:手にかかる重さを軽くしたところから、少しずつ再開する
腕を頭の上まで上げない練習
このサイトのSTEPの中では、斜め懸垂(インバーテッドロウ)が、腕を頭の上まで上げずにできる「引く」練習です。ただし、斜め懸垂でも痛みが出るなら、それも休みます。痛みが出ない範囲でできることだけをするのが基本です。
再開するときの目安
日常生活で痛みがなくなり、腕を上げても痛まなくなったら、少しずつ懸垂の練習に戻ります。いきなり全体重でぶら下がるのではなく、足を体重計にのせたまま手にかかる重さを軽くできるSTEP0(足つきぶら下がり)から始めると、負担を数字で調整できます。
再開した日は、PULLUXを測って、今のスコアに合ったSTEPに戻りましょう。休んだあとの再開の仕方は懸垂の練習を休んだ・やめた人の再開の仕方にまとめています。
肩の痛みを防ぐために
ケガを完全に防ぐ方法はありませんが、このサイトの練習では、次のことを大切にしています。
- いきなり全体重でぶら下がらず、段階的に負荷を上げる(懸垂達成ロードマップ)
- 反動をつけて体を振り上げない
- 練習の前に体を温める(懸垂のウォーミングアップ)
- 痛みが出たら、その日の練習はそこでやめる
まとめ
- 肩を回したときの音だけで痛みがないなら、それだけで治療が必要とは限らない
- 腕を肩より上に上げると痛む場合は、懸垂でも痛みが出やすい
- 急な強い痛み、腕が動かない、しびれ、ケガのあとの痛みなどは、早めに受診する
- 2週間たっても良くならない、悪化している場合も受診する
- 痛みを我慢して懸垂は続けない。痛みが出ない練習だけにする
- 再開はSTEP0で負荷を軽くしてから、PULLUXで今の位置を確かめる
よくある質問
- Q肩が鳴るけど痛くない。懸垂を続けていい?
- A
痛みがなく、腕も問題なく動かせるなら、音だけで練習をやめる必要はないと考えられます。わたしも右肩が鳴りますが、懸垂の動作に支障はありません。音に加えて痛みや引っかかりが出てきたら、練習を止めて受診してください。
- Q肩が痛いとき、パワーグリップを使えば大丈夫?
- A
パワーグリップは手や握力の負担を助ける道具で、肩の負担を減らすものではありません。肩が痛むときは、道具を使って続けるのではなく、ぶら下がる練習を休みましょう。
- Q片方の肩だけ痛い。左右差があるのは問題?
- A
片方だけ痛むことはよくあります。左右差そのものより、痛みの強さや、受診したほうがいいサインがないかを確認してください。気になる場合は受診をおすすめします。
参考文献
- NHS. Shoulder pain. https://www.nhs.uk/conditions/shoulder-pain/
- NHS Fife. Subacromial pain syndrome(患者向け資料).
- Baldawi H, Gouveia K, Gohal C, et al. (2022). Diagnosis and Treatment of Snapping Scapula Syndrome: A Scoping Review. Sports Health, 14(3), 389–396.



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